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●ローファンタジー●

魔術師よ、私の心に雨を降らせて
【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】 【第6回】
【第7回】 【第8回】 【第9回】 【第10回】 【第11回・最終話】
【あとがきと人物紹介】

●ライトファンタジー●
赤い果実と月夜のオアシス
【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】 【第6回】
【第7回・最終話】 【あとがきと人物紹介】


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魔術師よ、私の心に雨を降らせて【第4回】

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2・壊れゆく純粋培養

【1】-Tamaki-

「お嬢様! 探しましたよ!」

 水希お嬢様は、酔い潰れていた。村人の宴に参加していたらしく、とても浮かれている。その手は、ヴァイオレットの裾を握っていた。

「ヴァイオレット! ……戻りなさい。約束が違います」

 ヴァイオレットは私とメイドの渚を見て、苦い顔をする。

「環(たまき)! 私が彼を連れ出したの。許してあげて?」

 お嬢様が、ヴァイオレットの前に出て両手を広げた。悪者に果敢に立ち向かうような、健気な瞳。そんな顔をされると、いじめをしているみたいでいたたまれなくなる。そんな私を察してか、連れがヴァイオレットを睨み、渇を入れてくれた。

「はは。渚さんに睨まれちゃ、戻らないわけにはいかないなあ」

 世話係として付けてやった渚に、ヴァイオレットは苦笑いを交えて答えた。
 渚は、鉄の女だ。どんな男にも陥落しない。この女なら、ヴァイオレットを管理していけるだろう。私はそう判断したのである。

 邪魔者は消え、私は水希お嬢様のお手を取った。いつもならすぐに握り返してこられるのに、今日はあろうことか弾いた。お嬢様は、そのお手をご自身の胸に当てられる。そして、渚に連行されゆくヴァイオレットを見ていた。

その瞳は、ともに歩く私のことなど映しもしない。その瞳は潤み、揺れているのがわかった。そしてため息をつかれる。空想に耽っておられるご様子だ。
 ああ、また抱かれたのか……。

 ヴァイオレットを林から連れ出したのは、間違いだったな。奴はお嬢様をたぶらかし、初日から脱走して村をうろついた。しかも、堂々と雨まで降らせている。約束も糞もあったもんじゃない。私はどうも、甘かったようだ。

 ――そう。私は甘かった。まるで綿菓子のように。彼が約束を守らないことなど、想定できていたはずなのだ。なのになぜ、対策を考えなかったのか。なぜ私ともあろう者が、このような失態を犯してしまったのか。

 ああ、わかりきっている。私はヴァイオレットを、あの場から逃したかった。放たれた魚がどう泳ぐのかを、見てみたかったのだ。

 ヴァイオレットには、得体の知れない魅力がある。奴が場にいれば、空気が変わった。色は違えど、お嬢様と同じ形のオーラを持っている。つまりは私自身、彼に惹かれているということだ。胸糞の悪い話だが、それが事実だ。

 ん? 水希お嬢様が、若干歩を緩めたようだな。

「環」

 そう言って、お嬢様は私を見上げている。いつの間にか、私のほうが物思いに耽っていたようだ。

「なんでしょう」
「『隣の芝は青い』症候群とは、どういう意味?」

「……ヴァイオレットが言ったんですか?」
「ええ。あの人は一体、私に何を言いたかったのでしょう」

「なんてことはありません。自分より他人が良く見えてしまうことの例えです。つまりは、周りばかり見てもしょうがないということですよ」

「そういうことですか。では、精一杯とはどういう状態? 精一杯誰かを愛するには、どうすればいいの?」

「精一杯ですか。見返りを求めない、という表現に近いでしょうね。なりふり構わず、とにかく愛するんです」

「一方的でも悔やまないということですか」
「ええ恐らく。お嬢様はなぜ、そのようなことを気にされているので?」

「ヴィオラが言っていたの。精一杯誰かを愛すれば、少しは誰かから、愛を返してもらえるかもしれないと」
「なぜ、そのような話を?」

「彼は人が好きみたいで……。彼は村人たちの言葉に耳を傾け、同情し、笑いをもたらしたわ。環が苦労して手に入れた愛情全てを、彼は一日足らずで手に入れたの」

 そこで水希お嬢様は、荒れ始めた息を整えた。そしてトーンを落とし、話を続ける。

「私はヴィオラほど、村人たちから愛されていない。そう思ったら、言いようの無い感情が押し寄せてきたの。彼に、私の醜い気持ちをぶつけてしまったわ」

 なるほど、嫉妬か。天才的に人の心につけ入る、ヴァイオレットの才能。確かに稀有ではある。だが……。

「村人は皆、お嬢様を愛しておりますよ。それこそ両手で数え切れないほどの大勢が」

 私の返答に、納得しておられないご様子だ。あなたは充分に魅力的であり、人を惹きつけてやまないというのに。あなたはヴァイオレットのことなど気にせず、これまでのように真っ直ぐなお気持ちでおられればいいのだ。

 だがまあ、ヴァイオレットが外出さえしていなければ、このようなことにはならなかった。これは完璧に、私の失態だ。

 それにしても恐ろしい。奴は水希お嬢様の自信を無くさせ、伊集院家のメンツを潰し、私の民との距離感を台無しにした。ヴァイオレットと民の絆は深まるばかり。このままでは、伊集院家はどうなるのか。早急に対策を練らなければならないな。

 ん? 何だこの、甘い香りは。先ほどからも微かに香ってはいたが、これほどの強さではなかったな。立ち止まったら、強くなったようだが。

「お嬢様……この、香りは?」

「香り? この素敵な香りのこと? これならヴァイオレットです。あの人と『一つになる』と、このような香りになるのだと言っていました。あの人と共にある限り、この香りは消えないとも」

 奴の体液の匂いか。奴から引き離せば、自然消滅するということだな。だが、禁断症状は起こるのかもしれん。気をつけねばな。

「お嬢様、奴は他に、何も言っていませんでしたか? 例えば、蟲がどうとか」
「蟲? ああ。あの蟲、ね!」

 お嬢様は楽しそうに言って、ご自身の口の前で手を合わせた。そして答える。

「ヴィオラと一つになっているときに、とってもゾクゾクしたのだけど……それは蟲が騒いでいるのだと言っていました。彼が私の中に、蟲の卵を入れてくれたのですって。でもあんまり気持ちが良くなると、羽化した蟲が死んでしまうそうね。残念だわ」

 嬉しそうなお嬢様とは対照的に、私の心は凍っていった。

「お嬢様……。あなたは恐らく、中毒になっています」

 もう、耐えられない。お嬢様の細い腕を、私は強引に引っ張っていく。そして明かり一つ無い原っぱに、お嬢様を投げ出した。

 突然のことに、お嬢様は声も無く驚愕している。

「中毒になるまで、むさぼったのですか。そんなにあの男が、良かったのですか……」

 恐怖に顔を歪ませたお嬢様に、私は強引に覆いかぶさった。

「いやっ」
「何が嫌なのです! ヴァイオレットには許したのでしょう?!」
「どうしたの環。私、こわい……」

 ついにお嬢様は、泣き出してしまった。だがもう、限界なのだ。仕方の無いこと。

 お嬢様を奪ったヴァイオレット。しかも、毒を使うという卑劣な方法で奪い去った彼が憎い。いや、憎みたい。私は憎むべきだ。

 あの半妖は、我ら火の運び手の天敵だった。遥か昔の研究文献を読んで、弱点だって掴んだ。奴は、放っていけば孤独死する。だから先人は、閉じ込めておいたのだ。だが奴は、死ななかった。推測するに、奴は悪魔から毒を得て、なんとか生き延びてきたのだろう。

 魔の力と水の力を操ることができる半妖。末恐ろしい奴だ。剣を持って立ち向かったところで、そのまま抵抗もせず殺されてくれるはずはない。正攻法は無理だろう。

 だったらどうしたらいいのか。解毒だ。適当な女を遣して、奴の体内に魔よけでもねじ込んでしまえばいい。そうすればこれ以上、悪魔と取引できない。後は、血液の入れ替え期間を待てばいいのだ。それで解毒は完了する。そして再度林に放り込めば、奴は孤独で凍え死ぬだろう。

 だが、そこまではしない。悪魔との契約ぐらいはさせてやる。渚だってくれてやろう。殺すのは惜しいからな。情けない話だが、ヴァイオレットにはやはり、どこかしら魅力があるのだ。それは毒だとかいう問題じゃない。あくまで人間性の話だ。

 奴には生きていてもらう。だが水希お嬢様には会わせない。それで解決だ。

「いやあっ。ヴィオラ! ヴィオラぁっ。ヴィオラじゃなきゃやだあ〜!」

 うるさい。私以外の男の名前ばかり呼ぶんじゃない。私は平手で、その綺麗な顔をぶった。止めどもなく溢れる涙、絶望したような表情、嗚咽。見たことの無いお嬢様の表情に、私の下半身はそそり立った。欲望のまま、それをぶち込んでやる。

 お嬢様目を見開き、首を横に振って泣き叫んだ。そして呻く。

「うぅうう……っ」

 かわいそうな娘だ。私はとても、いけないことをしている。だが、これは正義でもあるのだ。その体内の蟲を殺すには、強い快楽が必要なのだから。私が与えてやる。より強い、快楽を。

 猛りを深く突き入れると、この娘の口から荒い息が吐き出された。

「ぅう……んっ」

 月夜に浮かび上がる顔に、悦びの表情が見て取れる。今度はゆっくりと、猛りを抜いていった。

「あ……ぁぁあ」

 結合が解けないように、ギリギリのところまで抜いていく。そして動きを止めた。娘が、物欲しそうな顔をしている。私は閉じかけた花びらを、乱暴に抉じ開け押し入った。そしてかき乱す。

「……ああっ!」

 娘の小さな突起を腹で刺激しながら、何度でも何度でも抜き差しした。

「あぁっ……あああ!」

 いい声だ。激しく擦ると咽ぶように鳴き、かき回すと恍惚に溺れた。

「たまきっ。おねがい。中に出して? わたしを……たまきの精液でいっぱいにして……?」
「では水希、言いなさい。『ヴァイオレットは、私を弄んだ最低の男です』と」

 娘は、戸惑ったような表情を見せた。

 ここまで快楽に溺れておきながら、まだ理性なんてものを持っていたのか。許せない。私は力任せに、娘のブラウスを破いた。そして娘の胸を、力強く吸う。

「あうっ」
「さあ言うんだ!」

「ヴァイオレットは……、わたしを弄んだ、さいていの……、あんっ」

 私の動きに反応して、嬌声を出してしまったようだ。

「中に出して欲しいのであれば、ちゃんと言いなさい」
「ヴァイオレットは、わたしをもてあそんだ、最低の、おとこ……です」

 いいだろう。では仕上げだ。変わらず冷たく見下ろしながら、私は次の言葉を促す。

「もう一つ言えたら褒美をやる」
「もう、一つ……?」
「ああ、もう一つだ。『私が好きなのは、環だけです』。さあ言いなさい」

「……わたしが、好きなのは、たまきだけ……です」

 今度は躊躇いなく言えたな。私はそこで、表情を緩める。

「よく出来ましたね。ご褒美をあげます」

 その瞬間、水希お嬢様のお口から、歓喜の声がこぼれた。その可愛らしいお声に、私の全身も震える。そして私は、その体内に思いの丈をぶちまけた――。


 私は屋敷に戻っても、水希お嬢様を解放しなかった。一晩中部屋に閉じ込め、彼女の中に出し続けた。何回イかせたかは、覚えていない。

 ――目を覚ました私が見たものは、横で寝ておられるお嬢様だ。天使のような、可愛い人。大切で大切でたまらない。まだ時間には余裕があるな。そうっとしておこう。

「……」

 溢れくる優しい気持ち。だが、同時に襲ってくる空虚感。これは一体何だろう。念願だったお嬢様の体を、やっと手に入れることができたというのに。私は今、幸せなはずだ。だが心というものは、そう簡単には満たされてくれないものらしい。

 私は枕に顔をうずめ、一人泣いた。


●続く●

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