妄想お化け☆ぱーとつー
えっちな表現がたまにある、ラノベ系小説を書いています。ノーマルな小説も読んでみたい方は、本館も覗いてみてください。
☆目次☆
●ローファンタジー●
「魔術師よ、私の心に雨を降らせて」
【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】 【第6回】
【第7回】 【第8回】 【第9回】 【第10回】 【第11回・最終話】
【あとがきと人物紹介】
●ライトファンタジー●
「赤い果実と月夜のオアシス」
【第1回】 【第2回】 【第3回】 【第4回】 【第5回】 【第6回】
【第7回・最終話】 【あとがきと人物紹介】
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【2】-Tamaki-
自分を拒絶した女性のために、命を捨てる。その決意は、どれだけ覚悟が要ったことだろう。ヴァイオレットの痛みを、私は身を持って感じていた。奴はあのとき、「痛い」と叫んだのだ。そしてこうも呟いた。「水に戻ろう」と。
水に戻る。この言葉の意味が、私にはわかった。これは、無償の奉仕を意味する。本来水とは、そういう性質のものなのだ。奴は「水」としては、悪しき感情に染まり過ぎていた。本来の性質に戻ろうという決意。それが「水に戻ろう」という呟きだ。
水は、人間の源。それを無くしては、人間は生きていけない。水は全ての始まりであり、全てを育む。水の意思を受け継いだ種族は、いつの世も人の中心にいた。
一方、私の属する火の運び手は、目立たない。目立たないが能力は高く、水の種族をライバルと見て時代を重ねてきた。
火の運び手は、何かを発火させる能力を持っている訳ではなかった。陸に上がり肺呼吸をし、火を使うことを覚えた人間。そのうちコミュニケーション能力が、驚異的に伸びた突然変異体のことだ。
人の心を読むという能力は、公にするわけにはいかない。ひけらかしても、気味悪がられるだけだ。だから我らには、能力はあれどもスター性は無かった。黙々とクールに、その能力を利用するだけだ。さしずめ、影の実力者というところだろう。
我らは、縁の下の力持ちで終わるかと思われた。だが、時代とともに逆転勝利したのだ。それは人の心を読むことで、人の心を掴む方法を知ったからだ。時の流れは、我々の能力を必要とした。読心が人の世を制し、経済をも発展させるに至ったのである。
火の運び手が国の実権を握るまでになったとき、水の種族は生き方をシフトした。賢者という立場から一転、彼らは見世物として生きることを望んだのだ。マスメディアに、「超能力者」として出現する者がいた。うまく手品師として活躍した者もいる。
水の種族。彼らはとにかく目立ちたがったらしい。彼らはいつの世も、人々が集まる場所に出てきた。何もせずとも、ただそこにあるだけで愛されていた。ときには目に見える特技を披露し、人気を欲しいままにしていた。
火の運び手は、能力があってもひけらかすことが許されない。我らは、危機感を覚えた。人間の指導者は我らなのだ。浮ついた水などに、目を向けさせてはならないと。平たく言えば、嫉妬だった。
我らはマスメディアを使って、水の種族のメッキ剥ぎに勤しんだ。人間科学をもって、超能力を否定してみせた。手品を失敗に導く番組を作ってみせた。そして社会の発展と称し、排水で水を汚した。そうすることで火の運び手が、一番になれると考えたからだ。まるで反抗期の子供だった。
詐欺師扱いされて孤立した水の種族、物理的に汚れてしまった水。それらには、毒蟲が寄り付くようになった。
だが水たちは、死ななかった。彼らは長い年月を掛けて自浄し、ついには輝きを取り戻したのだ。結果水たちは、汚れの象徴である毒蟲とも、交流を持つようになった。復活した水たちは、異世界の生物をも味方につけていたのだ。
お手上げである。水は手強いと、我らの種族は実感した。そして考え至ったのは、我らも水を真似てモテよう! ということだ。そのためには、水の成分、性質を知らなければならなかった。
我らは「超能力者」その他を、スカウトと称して大量に捕獲した。そして強い能力を持った者のみを、研究材料としたのだ。そのサンプルには、ヴァイオレットも含まれている。
その研究でわかったことは、彼らの奇妙な本能だ。個室に閉じ込めた多くのサンプルは、充分な栄養を与えても凍死してしまった。一人で居る――ただそれだけのことが、死に直結したのである。
人と関わりを持つこと、必要とされることが、彼らの生命維持に欠かせないものだった。愛されないイコール死。彼らは全生命をもって、人との関わりを構築していたのだ。
人が動物が物が、全てが愛しくて愛しくてしょうがない。それが水という種族だ。水の種族は人が好きで、我らの種族は自分が好き。それが我らと彼ら、両者の隔たりだった。
なぜ人々は、ヴァイオレットに惹かれるのか。私はやっとわかった気がする。
ヴァイオレットの基本は水だ。ゆえに存在するだけで愛される。だが彼の魅力は、それに留まらない。それに加え、奴は「悲しみ」という心の傷を持ち合わせていた。過去のトラウマからくる甘えと、水本来の親しみやすさ。それが思わず、彼を守ってやりたくさせる原因だ。
その彼が今回、恐れや不安、甘え等、およそ人間臭い感情の一切を手放した。水希お嬢様の役に立つことを優先し、泡となって消える覚悟でいるのだ。
断崖の真下、岩の斜面に両手をついて、奴は光を発している。もうすでに、術を開始しているのらしい。私はこの事態において、どこまでできるだろうか。私も少しは、変われるだろうか。この男のように。
「ヴァイオレット、戻りなさい。もういいと、お嬢様はおっしゃったのです」
そう言うと、奴は姿勢をそのままに言葉を返してくる。
「僕のせいなんだ。あの村が雨に困ってきたのは、僕がこの林で、ずっと寂しい思いをしていたから。僕の弱さが水希さまを追い詰め、大切な村人たちを困らせたんだ」
他者愛、か。そうだな。そんな選択も有りか。私は水希お嬢様を、全力で愛している。だったら自分の幸せを放棄してでも、お嬢様の幸せを願えるはずだ。愛しているのだったら、実行できるはずだ。よし、決めたぞ。
「君をここから出してあげますよ。お嬢様にも、好きなだけ会わせてやりましょう。それで寂しくないはず。飲み水なら、遠くから運ばせます。雨は体力が回復してからにでも、降らせてくれればいい」
お嬢様に近づくのを、指をくわえて見ていますよというお誘いだ。おまけに水も飲める。だがそんなおいしい話に、ヴァイオレットは乗ってこない。
「自然に任せていたら、一年はかかる。それじゃあ誰も、救えないからね。僕一人の命で済むんだ。それで水希さまが助かるんなら、安いものだろう? っていうか、倒産大特価だ」
倒産大特価? その例えはわからないな。なぜなら私は、奴の時代にあった言葉までは、勉強していない。ただし、何やら自己を卑下しているらしいことはわかった。
「……だが、君が死んでもお嬢様は苦しむ」
「じゃあさ……」
「なんです」
私の言葉から間を置いて、ヴァイオレットは言葉を続ける。
「環どのも命、捨ててみる?」
「な、何の話だ」
「ただ僕と並んで、両手を岩に着いていればいいよ。限りなくゼロには近いけど、僕が生きられるかもしれない可能性は高まる」
「……」
悪くは、ない。だが……。
「冗談だよ、環どの。そういうわけだ。水希さまの傍にいてやってくれ」
そうだ。私にはまだ、使命がある。水希お嬢様を、無事に邸宅まで送り届けるという使命が。
「……とりあえずは、そうさせてもらいましょう。ですが必ず、戻ってきます。それまではせいぜい、死なないように」
ヴァイオレットがうなずくと、私はお嬢様がいるはずの小屋に向かった。
●続く●
自分を拒絶した女性のために、命を捨てる。その決意は、どれだけ覚悟が要ったことだろう。ヴァイオレットの痛みを、私は身を持って感じていた。奴はあのとき、「痛い」と叫んだのだ。そしてこうも呟いた。「水に戻ろう」と。
水に戻る。この言葉の意味が、私にはわかった。これは、無償の奉仕を意味する。本来水とは、そういう性質のものなのだ。奴は「水」としては、悪しき感情に染まり過ぎていた。本来の性質に戻ろうという決意。それが「水に戻ろう」という呟きだ。
水は、人間の源。それを無くしては、人間は生きていけない。水は全ての始まりであり、全てを育む。水の意思を受け継いだ種族は、いつの世も人の中心にいた。
一方、私の属する火の運び手は、目立たない。目立たないが能力は高く、水の種族をライバルと見て時代を重ねてきた。
火の運び手は、何かを発火させる能力を持っている訳ではなかった。陸に上がり肺呼吸をし、火を使うことを覚えた人間。そのうちコミュニケーション能力が、驚異的に伸びた突然変異体のことだ。
人の心を読むという能力は、公にするわけにはいかない。ひけらかしても、気味悪がられるだけだ。だから我らには、能力はあれどもスター性は無かった。黙々とクールに、その能力を利用するだけだ。さしずめ、影の実力者というところだろう。
我らは、縁の下の力持ちで終わるかと思われた。だが、時代とともに逆転勝利したのだ。それは人の心を読むことで、人の心を掴む方法を知ったからだ。時の流れは、我々の能力を必要とした。読心が人の世を制し、経済をも発展させるに至ったのである。
火の運び手が国の実権を握るまでになったとき、水の種族は生き方をシフトした。賢者という立場から一転、彼らは見世物として生きることを望んだのだ。マスメディアに、「超能力者」として出現する者がいた。うまく手品師として活躍した者もいる。
水の種族。彼らはとにかく目立ちたがったらしい。彼らはいつの世も、人々が集まる場所に出てきた。何もせずとも、ただそこにあるだけで愛されていた。ときには目に見える特技を披露し、人気を欲しいままにしていた。
火の運び手は、能力があってもひけらかすことが許されない。我らは、危機感を覚えた。人間の指導者は我らなのだ。浮ついた水などに、目を向けさせてはならないと。平たく言えば、嫉妬だった。
我らはマスメディアを使って、水の種族のメッキ剥ぎに勤しんだ。人間科学をもって、超能力を否定してみせた。手品を失敗に導く番組を作ってみせた。そして社会の発展と称し、排水で水を汚した。そうすることで火の運び手が、一番になれると考えたからだ。まるで反抗期の子供だった。
詐欺師扱いされて孤立した水の種族、物理的に汚れてしまった水。それらには、毒蟲が寄り付くようになった。
だが水たちは、死ななかった。彼らは長い年月を掛けて自浄し、ついには輝きを取り戻したのだ。結果水たちは、汚れの象徴である毒蟲とも、交流を持つようになった。復活した水たちは、異世界の生物をも味方につけていたのだ。
お手上げである。水は手強いと、我らの種族は実感した。そして考え至ったのは、我らも水を真似てモテよう! ということだ。そのためには、水の成分、性質を知らなければならなかった。
我らは「超能力者」その他を、スカウトと称して大量に捕獲した。そして強い能力を持った者のみを、研究材料としたのだ。そのサンプルには、ヴァイオレットも含まれている。
その研究でわかったことは、彼らの奇妙な本能だ。個室に閉じ込めた多くのサンプルは、充分な栄養を与えても凍死してしまった。一人で居る――ただそれだけのことが、死に直結したのである。
人と関わりを持つこと、必要とされることが、彼らの生命維持に欠かせないものだった。愛されないイコール死。彼らは全生命をもって、人との関わりを構築していたのだ。
人が動物が物が、全てが愛しくて愛しくてしょうがない。それが水という種族だ。水の種族は人が好きで、我らの種族は自分が好き。それが我らと彼ら、両者の隔たりだった。
なぜ人々は、ヴァイオレットに惹かれるのか。私はやっとわかった気がする。
ヴァイオレットの基本は水だ。ゆえに存在するだけで愛される。だが彼の魅力は、それに留まらない。それに加え、奴は「悲しみ」という心の傷を持ち合わせていた。過去のトラウマからくる甘えと、水本来の親しみやすさ。それが思わず、彼を守ってやりたくさせる原因だ。
その彼が今回、恐れや不安、甘え等、およそ人間臭い感情の一切を手放した。水希お嬢様の役に立つことを優先し、泡となって消える覚悟でいるのだ。
断崖の真下、岩の斜面に両手をついて、奴は光を発している。もうすでに、術を開始しているのらしい。私はこの事態において、どこまでできるだろうか。私も少しは、変われるだろうか。この男のように。
「ヴァイオレット、戻りなさい。もういいと、お嬢様はおっしゃったのです」
そう言うと、奴は姿勢をそのままに言葉を返してくる。
「僕のせいなんだ。あの村が雨に困ってきたのは、僕がこの林で、ずっと寂しい思いをしていたから。僕の弱さが水希さまを追い詰め、大切な村人たちを困らせたんだ」
他者愛、か。そうだな。そんな選択も有りか。私は水希お嬢様を、全力で愛している。だったら自分の幸せを放棄してでも、お嬢様の幸せを願えるはずだ。愛しているのだったら、実行できるはずだ。よし、決めたぞ。
「君をここから出してあげますよ。お嬢様にも、好きなだけ会わせてやりましょう。それで寂しくないはず。飲み水なら、遠くから運ばせます。雨は体力が回復してからにでも、降らせてくれればいい」
お嬢様に近づくのを、指をくわえて見ていますよというお誘いだ。おまけに水も飲める。だがそんなおいしい話に、ヴァイオレットは乗ってこない。
「自然に任せていたら、一年はかかる。それじゃあ誰も、救えないからね。僕一人の命で済むんだ。それで水希さまが助かるんなら、安いものだろう? っていうか、倒産大特価だ」
倒産大特価? その例えはわからないな。なぜなら私は、奴の時代にあった言葉までは、勉強していない。ただし、何やら自己を卑下しているらしいことはわかった。
「……だが、君が死んでもお嬢様は苦しむ」
「じゃあさ……」
「なんです」
私の言葉から間を置いて、ヴァイオレットは言葉を続ける。
「環どのも命、捨ててみる?」
「な、何の話だ」
「ただ僕と並んで、両手を岩に着いていればいいよ。限りなくゼロには近いけど、僕が生きられるかもしれない可能性は高まる」
「……」
悪くは、ない。だが……。
「冗談だよ、環どの。そういうわけだ。水希さまの傍にいてやってくれ」
そうだ。私にはまだ、使命がある。水希お嬢様を、無事に邸宅まで送り届けるという使命が。
「……とりあえずは、そうさせてもらいましょう。ですが必ず、戻ってきます。それまではせいぜい、死なないように」
ヴァイオレットがうなずくと、私はお嬢様がいるはずの小屋に向かった。
●続く●
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